【予告編】消費税は暗殺者!単一税率用の帳簿方式で「広く薄く」を「広く厚く」にして日本経済を殺します!
そもそも、消費税はなぜ導入されたのだろうか。日本の税の歴史については、財務省のQ&Aでその概要を知る事が出来る。
消費税が導入されたのは1989年(平成元年)だが、その前から自民党では大型間接税の導入が検討されてきた。当時の間接税は物品税で、個別の商品に対して贅沢品か必需品かを特定して、贅沢品にだけ課税していた。しかし、その特定を客観的に行うことが次第に困難になり、消費税の導入に伴って物品税は廃止となった。
大型間接税の導入目的については、税の公平化(直間比率の是正)もあったが、高齢化社会への対応(つまり財源確保)も挙げられていた。現在はMMT(現代貨幣理論)の登場もあって『税収は財源ではない』が少しずつ広まりつつあるが、何せ30年以上前の話である。
消費税導入までの紆余曲折をざっと端折ると、下記のようになる。
1979年(昭和54年) 大平内閣
一般消費税を閣議決定するも挫折。大平氏は蔵相時代に初めて赤字国債を出し、
1987年(昭和62年) 中曽根内閣
売上税を法案提出するも廃案(前年の衆参同日選挙での大型間接税の導入は
しないという公約を翻したため)。
1988年(昭和63年) 竹下内閣
消費税法案を可決、翌年4月より税率3%消費税スタート。
自民党にとっては10年来の悲願だったわけで、どこで聞いたのかは忘れたが、30年以上経った今でも「導入するのにどれだけ苦労したと思っているんだ」という消費税LOVEの先生がいるらしいのも無理はない。
で、これだけの紆余曲折を経ているので、竹下内閣では「消費税の導入」が先決となり、反対勢力の懐柔と利益誘導が積み重なって、消費税は歪な税制になっていると、税理士第一号で大平内閣時代から大型間接税や消費税に反対の立場の中央大学名誉教授の富岡幸雄氏は言う。
中央大学の商学部と経済学部の研究成果発表誌「商学論纂」は、中央大学学術リポジトリ (nii.ac.jp)で2013年の第55巻からPDF参照できるが、2018年の第59巻 5・6号に掲載されている、富岡氏の竹下政権の消費税と闘う税務会計学研究 : 税制公正化への闘いの歩み・1980年代後期・後編から『新税の構想と類似税との比較─これまでの大型間接税と今回の構想の差異─』という表を引用しよう。
事項 | 消費税 (竹下内閣) | 売上税 (中曽根内閣) | 一般消費税 (大平内閣) | フランスの 付加価値税 |
導入の目的 | 税の公平化 | 減税の財源 | 財政再建 | |
増減税の収支 | 減税先行 | 増減税同額 | 増税志向 | |
タイプ | 帳簿方式 | 伝票方式 | 帳簿方式 | 伝票方式 |
標準税率 | 3% | 5% | 5% | 18.6% |
非課税 | 土地・有価証券・金融・保険 | |||
(政策的 非課税) | 授業料・試験料・社会保険医療費・特別養護老人ホームなど | 飲食料品・住宅・医療・社会福祉・教育・輸送・家賃など51項目 | 食品・医療・教育・社会福祉など | 医療・教育・郵便・家賃・公的養護・障害者施設・スポーツなど |
軽減税率 | なし | 食品・新聞・輸送など | ||
割増税率 | 乗用車に特例 | なし | 宝石・カメラ・乗用車など | |
免税 | 年間売上高 3,000万円以下 は非課税 | 年間売上高 1億円以下は選択制 | 年間売上高 2,000万円以下 は非課税 | 税額1,350フラン(約2万7,823円)以下は不徴収 |
税額計算の 特例 | 年間売上高 5億円以下は簡易課税 | 年間売上高 1億円以下は80%(卸売業は90%)を仕入税額として控除 | 年間売上高 4,000万円以下は簡易課税 | 年間売上高 300フラン(約6,183万円)以下は簡易実額課税制 |
ここで注目したいのは、消費税タイプの「帳簿方式」と「伝票方式」だ。実は後者の「伝票方式」とはインボイスの事なのである。消費税は複数の事業者間を経た取引でその累積を避けるために、仕入れ税額控除が認められているが、伝票方式は売り手側が発行するインボイスに消費税額と消費税率を記載するので、複数税率(軽減税率)であっても買い手側は正確な仕入れ税額の算出が可能だ。
付加価値税の発祥の地フランスではインボイス方式を採用しており、複数の軽減税率(フランスでは10%、5.5%、2.1%)が運用されている。その代わり、インボイスの発行・管理、納税事務の煩雑さなど事務的負担は大きいとされ、中曽根内閣での売上税の法案提出時には、有権者からは公約違反、事業者からはインボイス導入に批判の声があった。
そこで、消費税の導入を優先する竹下内閣が採用したのが帳簿方式だ。帳簿方式は事業者側の自己記録で、売り手側の請求書にインボイスのような消費税額や消費税率が記載されていなくても、単一税率であれば税込み請求額から仕入れ税額を算出でき、納税事務を簡素化できる(前提として正確な帳簿を作成する必要はある)。それで消費税は3%の単一税率のみで、軽減税率はなしとなった。
こうして帳簿方式の採用により単一税率となった消費税は、最初は「広く薄く」だったが、30年の時を経て度重なる消費税率のアップで、今や「広く厚く」になってしまった。何しろ3%で始まったのが、現在は10%なのだから3倍以上、それなのに国民の負担軽減のために、食料品などの生活必需品は税率をゼロ、書籍や医薬品などは5%くらい、他は対象によって10%や20%にするというような複数税率(軽減税率)は運用できない。
こんなことは最初から分かっていただろうに、と俺なんぞは思うが、帳簿方式を採用した消費税が日本経済を殺すための暗殺者(いや隠れてはいないが)であったのなら、まもなくその任務は完了、なのかもしれない。